暖かい陽射しの春の日。風の村での物語。

草原の中の一本道を一人歩く男の子がいました。短くつややかな黒い毛並み。ごく普通の、風の村の男の子。元気なくてくてく歩く彼の耳は歩くたびにふらふらとゆれていました。春の柔らかい風もただ彼の耳を通り過ぎるばかりです。小鳥がさえずり小さな花たちが道々に咲く、素敵な小春日和にも気が付かないように男の子は小さなため息をひとつ落としました。
「‥‥はぁ。」
「‥‥ん〜〜〜〜もぉ!まぁたそんな暗い顔しちゃって!」
いきなり彼の後ろからそんな声がしました。ゆっくりと声の主を振り返り、今度はさっきとは違う、あきれたため息をひとつ。
「‥‥はぁ。また僕を驚かそうとしてたの?チャーム。」
男の子の名前はロップ。青いオーバーオールがトレードマークの、ホントはいつでもほがらかな笑顔の、やさしい男の子です。
「ま〜ったくアンタって子は!いっつもいつもそんな辛気くさぁ〜〜い顔しちゃって!驚かす気も失せちゃったじゃない。からかう方の身にもなってよね。」
やれやれ、という顔のロップを尻目にこんな勝手な憎まれ口を叩く女の子の名前はチャーム。うすピンクがかった白い毛並みが鮮やかな女の子。見ている人まで元気が溢れる女の子。春の暖かさを詰め込んだような、そんな女の子です。
今年の春が訪れるのといっしょに、ロップのお隣に引っ越してきた遠い草原の村の一家の一人娘です。

まるで、一人の男の子が去ったのと入れ違うように‥‥。

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