並んで歩き始めたチャームは、ロップが手に持つ空っぽのかごを覗き込みながら言いました。
「長老さん、今日はどうだった?何かお話してくれた?」
「‥‥ううん、やっぱり元気なかったよ。僕もなんだかいたたまれなくてお食事だけ届けて帰ってきちゃった‥‥。」
「ふぅ〜ん。‥‥じゃあさ、今日はもう用事ないんでしょ?どっか遊びに行こうよ!私、この村のことまだほとんど知らないしさ!」
はぁ、とまたため息をついてロップが元気なく答えます。
「ごめん、あんまり走り回る気分じゃないんだよ。‥‥本を読むのとかだったらつきあうけど‥‥」
「もぉ!それじゃ一人でいるのとおんなじじゃないの!せっかく風の村に越してきたんだから私だって風に乗ってみたいの!」
チャームはロップの前に回り、大げさな身振りで言います。広がったチャームの耳がゆっくり降りるのをながめながら、
「ん‥‥風の乗り方なら他の誰かに‥‥」
「み・ん・な・同じことを言うのよ!だ〜〜れも教えてくれないの!風の村の子はみんな元気で明るいって聞いてたから引っ越してくるのも気楽だったのにぃ!
‥‥やっぱり、クロノアって子が居なくなったからなの?」
ぴくっとロップの両耳が動きました。
「‥‥クロノアが一番上手く風に乗れたね‥‥。」
つぶやくとまたため息をひとつ。今度はチャームがあきれたため息をつきました。

クロノア。チャームがこの村に来るほんの少し前まで居たという、村一番の元気な男の子です。チャームもみんなからその話は聞いていました。村の長老と一緒に暮らしていた誰にも負けない風使い。いつもヒューポーという指輪の精と一緒だったそうです。ある日、この村や周辺の国々を、そしていずれは世界全てを覆い尽くすような古代の悪夢が蘇ったその時に、悪夢を退治したもののその影響で別の世界へと飛ばされてしまった、ということでした。
村が平和にはなったけれど、クロノアが居なくなってしまった事は村人たちには大きなさみしさでした。ロップがクロノアの所へ遊びに行くと、いつも色々な昔話を聞かせてくれていた長老もすっかり老け込んでしまっています。

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